「お花屋さんになりたい」、「お花の仕事がしたい」。
私がそう思ったとき、どんな働き方があるのか、どんな職場があるのか、業界全体を見渡せるような情報はほとんど見つかりませんでした。
あの頃の自分に向けて、こんなことが知りたかったな、という気持ちでまとめました。
これからお花の仕事をしてみたいと思う人に、参考になれば幸いです。
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「花屋」といっても業態は様々。どんなパターンがある?
店売りのお花屋さん。
<個人店から大手会社チェーンの社員まで>
いわゆる「街のお花屋さん」。運営母体は大小さまざまです。
駅ビルなどに入っている大手の会社もあれば、家族経営のこじんまりしたところも。どちらにもそれぞれいいところがあります。
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大手チェーン展開しているところの良さは、社員になってしまえば得られる安定感。また、社内教育がしっかりしているところなら、技術も習いやすいです。
ただし会社員ですので、異動があったり、思うような職種につけない、という面はあります。
年数を重ねると店長などのマネージメント職しか道がなく、必ずしも向いてないよなーと思うことも。
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個人店の良さは、全体の経営が近くで見られること。
会社だと仕入れは仕入れ担当、法人向けは法人向け担当、と部署がわかれてしまいがちですが、個人店はいろんな仕事を見ることができます。
将来お店をやりたいなら、こっちの方が絶対勉強になります。
その代わり、福利厚生や安定感は微妙なところも。残業代が出ない…とか、休みが少ない…とか、訴えたら勝てるレベルで労働条件悪いことも(よく)あります。
よく見極めて自分に必要な学びを選びましょう。
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そして最後は、自分で個人店をひらく場合。
これはもう、個人事業・経営者に自分がなるということ です。個人店で修行して、または大手花屋から独立して、という人が多いです。
ホテル、結婚式場、葬儀場の花屋さん。
<安定のザ・会社員>
大手の会社の中には、結婚式やお葬式を専門にしているところもあります。もしくは、専門部署があったり。
結婚式やお葬式というのはつまり、大型のイベント装飾 です。ひとりではできないので、チーム単位で仕事をします。だから個人店というより、会社でやっているところが多い。
結婚式やお葬式の仕事がしたい!と思ったら、まずはそのような会社に「就職」することになるでしょう。
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結婚式やお葬式は花屋だけで完結する仕事ではありません。
結婚式ならホテルや式場のスタッフ、ヘアメイクや衣装のスタッフ、ウエディングプランナーの方、などなど、たくさんの部署と関わりながら仕事をします。
ホテルの朝礼に出たり、部署をまたいだ打ち合わせなどもあります。
しかも、だいたい花屋は「テナント」としてホテルや式場に入っていますので、立場は低め…であることが多いです。
そういう意味で、お客様以外のいろいろな方向に気を使わなきゃいけないことも。
花の仕事ではあるのですが、なんというか、一番「会社員」ぽい側面がある職場です。
名前が看板!フラワーデザイナー。
<実力勝負の個人事業主>
いわゆる「フラワーデザイナー」として名前が売れている人。
そこに至る道はさまざまなようです。実家が花屋という跡継ぎな人もいるし、アパレルや他業種から独立した人も。
いずれにせよ、実力と、ある程度の素質は必要です。個人としての華とか、個性的なキャラクターも必要だったりしますしね。
お店を持つ人もいますが、アトリエだけかまえて装飾や活け込みの仕事を受けるパターンが多いようです。
大手のブランドと契約したり(ウインドウディスプレイとかイベントのときの装飾とか)、テレビや雑誌の撮影につかう花の仕事をしたり。
名前が有名になれば、お店を展開したり、教室を全国に持ったり という方もいますね。
スクールや教室で「教える仕事」。
<個人事業・フリーランス講師・スクール所属の社員などパターンさまざま>
「教える仕事」は、自宅で花教室をひらくような個人事業主的なやり方 から、スクールに講師として雇われる会社員的なやり方 までさまざまです。
大手のお花屋さんでは教室を展開しているところもあるので、社内でそういう部署を目指すというのもありですね。
民間の協会に所属して資格をとって○○講師を名乗る人が多い感じがします。(生け花なども、流派に所属して免状をとって師範になりますよね)
ただ、本来は教えることに特別な資格は必要ないので、生徒を集めれば先生は名乗れます。経験と勉強次第でしょうか。
だからやめられない!花屋の仕事のおもしろさ。
お客さまのスペシャルな時間を演出する醍醐味。
「花」が必要とされるときって、その人にとって「特別なとき」であることが多いです。
結婚式やお葬式はもちろん、街のお花屋さんで売るような小さなアレンジや花束だって、大切な人へのお見舞いや、一生に一度のプロポーズの花束だったりするかもしれません。
正直そういうときって、「花」は主役ではありません。
でも、その人にとっての大舞台に、文字通り「花を添える」わけですから、やりがいはあります。
お悔やみのアレンジをオーダーに来た人がほろりと涙を流したり。
プロポーズの花束に指輪を仕込んでくれと頼まれたり。
私たちにとっては毎日大量につくる商品のひとつではありますが、この人にとっては一生に一度の瞬間なんだな、と思うとちょっと胸が熱くなります。
商品としての「生花」の魅力。
生花はナマモノです。日々咲き進みますし、長くて1週間から10日の命。
季節によって入荷する花も違います。いまお店に並んでいる組み合わせは、2度と同じタイミングで並ぶことがありません。
つまり、同じ商品を2度とつくることができません。
「デザインする」仕事として、こんなに面白いことはありません。
材料は日々変わり、思っていた通りの色、枝ぶりがあるとは限らない。
材料を見て、その場で組み合わせや配置を考える。そうしてできた商品や作品は、あっというまに消えてなくなり、同じものを再現することはできない。
だから飽きることなく続けられるのかもしれません。
また、ゼロからデザインするWebデザインやその他のデザインの仕事と違い、圧倒的に「材料=花」に力があります。放っておいても美しい素材です。
それをどう活かすか。
自分の力だけでつくるデザインの仕事とはちがう、面白さがあります。
圧倒的に「喜んでもらえる」仕事。
花屋の仕事はなぜか「喜んでもらえる」仕事です。
モノを売ってお金をいただいているのはこっちなのに、「ありがとう」と言ってもらえる仕事って、実はあんまりないのではないでしょうか。
お花をもらって嫌な気持ちになる人はあんまりいないのでお届け先でも喜ばれますし、頼まれて花束をつくるだけで喜んでもらえる。いい仕事です。
とはいえ、花屋の仕事はけっこうしんどい。
長時間労働、肉体労働。体が資本。
花の仕事はキレイな仕事と思われがちですが、その中身は「ザ・肉体労働」です。
水の入ったバケツは重いし、冬は暖房もろくにできないので超寒い。水も定期的に替えなくちゃいけないし、売れれば重いバケツを動かして陳列を変えなくてはいけません。
ナマモノなので売れなければ腐ります。売れても売れなくてもやることはいっぱいあります。
そのうえ、労働時間が長い。きちんとシフトを組んでいる会社は別ですが、個人でやろうと思ったらそれこそ朝から晩まで仕事があります。
仕入れの日は朝4時起きで、帰って水あげをして陳列をして商品をつくって配達して、とかやっているとあっという間に夜です。
手を動かして商品をつくる労働集約的な仕事なので、母の日やお彼岸など繁忙期は残業必至。
シフトを組める大手の会社でも、繁忙期は逃れられません。
そして基本は立ち仕事ですから、体力も必要。1日13~14時間立ちっぱなしとかもざらにあります。健康でなければつらい仕事です。
給料は安い!期待しないこと!
そんなにしんどいのに、給料は安い!
悲しい。
専門学校卒業で初任給は15万円くらいのところが多いです。時給はもちろん最低時給(2017年現在、東京都の最低時給は924円)。
経験を積んでも大幅に上がることは少ない…ような気がします。なぜだ。
一般社会人から転職してくる方は、覚悟してきてください。
年齢、体力への不安。
若ければ乗り切れる体力仕事も、年齢を重ねるとつらくなってきます。腰が痛い、膝が痛い、手首が痛い、などなど…。人間は老いていきますからね。
そうなったとき、若い時と同じような働き方ができるのか?というのは常に不安。
また、ケガや病気などで現場に立てなくなることもあります。
現場の仕事以外のキャリアは見えにくいのですが、考えておかなくてはいけませんね。
フローリストとしてのキャリアを考えよう。
ゴール設定をしよう。
どんな花屋人生を歩みたいのか、ゴールをちゃんと決めましょう。
自分のお店をひらきたいのか。
安定したお給料をもらいながら働きたいのか。
大きな装飾やブライダルの現場で指揮をとれるようになりたいのか。
それによって、どんな会社にはいればいいのか、どんなことを学べばいいのか、必要なことはまったく変わってきます。
正解はありません。自分が目指す場所を決めましょう。
ゴールに向けて、技術を磨く。
ゴールを決めたら、それに必要な技術を磨きましょう。
花の業界は転職もしやすいので、「それに必要な技術を学べる職場に身を置く」のが手っ取り早いです。
たとえば「自分のお店をもつ」が目標なら、仕入れから営業まで全部見ることができる小さな個人店で働いてみるのがいいでしょう。
もしくは「大きな装飾の現場で指揮をとれるようになる」が目標なら、有名ホテルに提携している花屋で働いてみるとたくさんの現場を見ることができます。
そこで昇進を目指すもよし、小さめのホテルに転職して現場を仕切れるチーフ経験を積むのもよし。
また、職場で学べること以外にも、自分で勉強できることはどんどん勉強するべき。
お花のこと以外の勉強や資格が、意外と役に立ったり強みになったりするものです。
専業でなくてもいいかも?副業の組み合わせを考える。
給料が安い!でも書きましたが、お花の仕事はあんまり稼げる仕事ではありません。
雇われていても昇給はたかが知れているし、独立しても成功するのはほんの一握り。
しかし技術を身につければ、細々とでも仕事が途絶えることはありません。
どこも人手不足なので、経験者は重宝されます(給料は安いけどね)。
それだけで食べていくのは難しくても、うまく他の仕事を組み合わせることは考えてみる価値があると思います。
前述したように、花の仕事はやりがいのある面白い仕事です。細く長く続けるには、副業を見つけるのも一つの方法です。
それでも花の仕事を目指したいあなたへ。
「花が好き」な気持ちを失わないように。心と体を守ろう。
「花の仕事がしたい」と思ったあなたは、きっとお花が好きな方でしょう。
その気持ちはとても大事です。しんどいこともあるけれど、その気持ちがあるから続けられるのです。
ところが目標なく激務に追われていると、心や体を病んで「もうお花を見るのも嫌だ!」となってしまう方も少なくありません。
ギリギリまで激務をこなした挙句、すべてが嫌になってしまってもうお花とは関係ない仕事に転職する、という人をたくさん見てきました。
それは本人にとっても、お花業界にとっても、とてももったいないこと。
しかし残念ながら、働く人を守ってくれる会社ばかりではないのが現実です。激務をさせて、嫌ならやめればいい、と人材を使い捨てのようにする職場も(けっこう)あります。
自分の心と体は自分で守るしかないのです。
花の仕事はどうしても激務なので、うっかりするとあっという間に消耗します。
理不尽なことには声をあげましょう。
休みはしっかり取りましょう。
どうしてもダメな職場なら、早めに見切りをつけて転職しましょう。
花の仕事場は他にもたくさんあります。
花をキライにならずに、長く、自分らしく働けるように知恵をしぼりましょう。
使われて消耗しないために。キャリアは自分で考えよう。
使い捨てにされないためにはどうすればいいか。
自分の目指すキャリアをしっかり自分でもつことです。会社がなんとかしてくれると思ってはいけません。
「自分がお花の仕事をどうやりたいか」を明確に持って、そのために会社や職場を利用するつもりで仕事をしましょう。
ただの「激務」なのか、自分の糧になる「修行」なのか、意識を持つだけで変わってきます。
もちろん最初からゴール設定ができるわけではないし、やってみるうちにゴールが変わってくることもあります。それはそれでいいのです。考え続けることが一番大事です。
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ここに書いたことは、あくまで私個人が見てきたこと、考えたことです。信じるも信じないも自由。決めるのは自分です。
私は今まで、夢をもってお花の業界に入ってきたのに、心や体をこわして辞めていく人をたくさんたくさん見てきました。
これからお花の世界に入ってくる人には、キレイなところだけではない現実を知ってもらい、すこやかに長く仕事を続けられる人がふえるように、と願っています。
Welcome to our World!
給料安くてつらいなあ…と思ったときは『副業』もオススメ
独立したいわけじゃないけど、花の仕事は続けていきたい。でも給料が安くてつらい…というときに、副業は選択肢のひとつ。
花屋と両立しやすい副業バイトはどんなものがあるのか?まとめています。参考にどうぞ。