品種改良が進み、昔とはすっかりイメージが変わっていく花というのがあります。日本人にはお馴染みの「菊(キク)」もそのひとつ。
菊というとお葬式や仏花のイメージが強い花ですが、最近は色とりどりのオシャレな菊を見るようになったと思いませんか?
そんなオシャレ菊に『ディスバッドマム』という表記がしてあることがあります。ディスバッド…?
今回は、そんな「ディスバッドマム」をなるべくわかりやすく解説したいと思います。
花屋に出回るキクの種類は、大きく分けて4種類
お花屋さんに切花として出回るキクは、大きく分けて4種類あります。
1.輪菊
2.小菊
3.スプレーマム(スプレーギク)
4.ディズバッドマム(洋ギク)
の4種です。ひとつずつ見てみましょう。
1.輪菊(輪ギク)
『輪菊』は、いわゆる昔からあるキクです。白か黄色か赤の、よく仏花に入っていたりお葬式で使うやつです。有名な品種は「神馬」など。
2.小菊(コギク)
『小菊』も昔からあるキクです。ひとつの茎に小さい花がたくさんついています。白や黄色や赤があり、花は一重で素朴な雰囲気です。
輪菊と小菊の特徴は、つぼみの状態で出回ること。お花屋さんはかたいつぼみの状態で仕入れて、すこし咲かせて使います。全開の状態で店頭で売られることはあまりありません。(葬儀のときなどは、咲かせたものを使うことはあります)
3.スプレーマム(スプレーギク)
1970年代頃から、小菊よりは花が大きく、カラフルな品種が多い『スプレーマム』が出回りはじめました。(「スプレー」というのは「枝咲き」という意味で、1本の茎にいくつも花がついていることを言います)
輪菊と小菊は昔から日本にあった菊ですが、スプレーマムは「洋ギク」「西洋ギク」と呼ばれる種類の菊です。
もともとキクは日本や中国が原産の植物。それが1800年代にヨーロッパへもたらされ、ヨーロッパで品種改良が重ねられました。それが現在になり日本にも輸入され、「西洋ギク」として楽しまれているというわけ。
切花の世界では、伝統的な日本のキクを「キク」、西洋ギクは「マム」と呼ぶことにしており、スプレー咲きの西洋ギクは『スプレーマム』となります。
スプレーマムは小菊と違って、咲いた状態で出回ります。八重咲やポンポン咲など色々な咲き方があり、色も豊富。仏花だけではなく、普通の花束に使われることも多いです。
4.ディスバッドマム
さて、問題の『ディスバッドマム』です。これは、スプレー咲きでない洋ギクのことです。
よく知られているのは、まん丸の花が特徴的な「ピンポン菊」。それ以外にも、緑色で大輪の“アナスタシア”や、花びらの縁取りだけが緑の”ゼンブラライム”なども有名ですね。
ちなみに、スプレー咲きにするか1本仕立てにするかは、仕立て方の問題で、使われている品種は同じということも多くあります。
切花の世界では、洋ギクはスプレーマムが先に広まり、1本仕立ての洋ギクの種類が増えてきたのは本当に最近。2000年代に入ってから、という印象です。
結論:「ディスバッドマム」=1茎に1輪花がついている西洋ギクのこと
ということで、結論としては
ディスバッドマム=1つの茎に1輪花がついているタイプの洋ギクのこと
となります。
ですが、いまいち浸透していない。それはなぜかというと…
一輪咲きのマムに名前をつける必要が出てきた →「ディスバッドマム」
先ほど書いたように、1輪咲きの洋ギク(マム)は、切花として出回り始めたのがごく最近です。
なので、最初の頃は、「ピンポンマム」とか「アナスタシア」とか、通称名や品種名で呼ばれていました。
ところが、どんどん品種が増えてきて、その姿かたちも様々なことから、まとまった品目名をつける必要が出てきたわけです。
(品目名は市場などで管理される名前のこと。輪菊の「キク」と一緒にされてしまうと、統計などが取りづらく不正確になります)
そこでついた名前が『ディスバッドマム』。後付けで品目名をつけたため、いまいち浸透していないのですね。
ディスバッドってどんな意味?
そもそも「ディスバッド」はどんな意味なのでしょうか?
disbud(ディスバッド)とは、除去するという意味の「dis」と、脇芽という意味の「bud」を合わせ、脇芽をかいて一輪の花に栄養分を集中させることで、大きく、豪華に仕立てた菊のことです。 (大田花きHPより)
英語辞書で調べると、disbudは摘蕾(てきらい)=脇芽・つぼみを取り除くこと、とあります。
そもそも、菊もバラも、最初から1本の茎に1つしか花がつかないわけではないのです。1本の茎にいくつか蕾がつき、花を咲かせるのが自然な状態。
それを1本仕立てにするために、人間が蕾や脇芽を取り除き、大きな1輪を咲かせるのです。
だから本当の意味で言えば、輪菊も”ディスバッド”。
ですが、切花流通上の品目としては、「1輪仕立てにした洋ギク(マム)」を「ディスバッドマム」と表記しているというわけなのです。
「1輪咲きの洋ギク」には他の呼び方もある
「ディスバッドマム」は、市場の流通上でつけられた品目名です。それとは別に、生産者や産地がブランドをつくるためにつけた名前や通称名があります。ややこしいのですが、ほかの呼び名も紹介しておきますね。
クラシックマム
まるでダリアのような大輪の花をつけるマムを、『クラシックマム』と名付けて作っている産地があります。愛知のJAみなみや、飛騨高山の「飛騨クラシックマム」などが有名です。
これは、ブランド名といえばいいのかな…。1輪咲きのマムで、特に大輪でドラマチックな咲き方のマム(説明難しい)を指しているように思います。
フルブルームマム
フルブルーム=満開に咲かせて出荷されるマムのこと。
これは、輪菊?洋ギク?
こちらの記事では、香川でフルブルームマムを生産されている生産者さんへのリポートが詳しく載っています。ここでは輪菊の品種(精の一世・神馬・精興北雲など)をフルブルームタイプにして販売する、ということのよう。
ここでは、神馬も精の一世もセイオペラも「ディスバッドマム」と書かれています。洋ギクと輪菊、という区分け方ではないようです。ちょっとややこしいですね。
デコラマム
「デコラマム」というのもよく聞く呼び名です。キクだけではなく、ダリアなどでも「デコラ咲き」という言葉があります。
デコラ咲きは、花びらの数が多く隙間無く詰まって咲く咲き方で、花の大きさも大きいボリュームのある咲き方のこと。
切花の仲卸店などでは、「セイオペラ」や「アナスタシア」「ロサーノシャルロッテ」などの大輪はなやか系のマムを「デコラマム」と区分けしたりしています。
でも、ピンポンマムはデコラマムには入らない気がする。もうちょっと平らで、ダリアっぽい感じのマム、という感じですかね。
まとめ。結局ディスバッドマムってなんなの?
で、ディスバッドマムって結局なんなの?
書けば書くほど、本当の定義がわからなくなってきますね。
洋ギク(マム)の1輪咲きタイプのことだと思ったのに、神馬のフルブルームもディスバッドマムという人もいる。
ディスバッドマムという言葉より、クラシックマムやデコラマムの方が流通していたりする。
要するに、品種や仕立て方の進化が早くて、区分する呼び名が追い付いていないということだと思います。
市場としては、統計などをとるためにも、一般的な仏用に使うような”キク”と分けて分類したい。だから「ディスバッドマム」という品目名をつけたのでしょう。
生産する側、流通させる側は、ブランド化もしたい。咲き方でわかりやすい名前を付けたい。ということで、様々な呼び名をつけている。というのが現状だと思います。
仕事で花を使う身としては、覚えておくべきは「品種名」かと思います。(この前使ったあの緑色のデコラマム…ではなく、「アナスタシア」と覚えておけば注文がかけられますね)
植物的には、輪菊も洋ギク(マム)も Chrysanthemum。
お花屋さんに並ぶ華やかなキクには、いろいろな名称がつけられていると思いますが、お客様としては、品種改良や仕立て方を工夫して新しくうまれたジャンルの菊なんだなあ、と思っておけばよいと思います。
そのうちもう少しわかりやすい名前がつくといいなと思いますが、どうなることやら。
しかし新しいマムたちは本当に美しいものが多いので、仏用のイメージにとらわれず(名前なんてどうでもいいので)、どんどん楽しんでほしいと思います。