ユリといえば、豪華なお花の代表選手。ぱっと見れば「ユリ」とわかるけど、こまかい違いは意識していない方も多いのではないでしょうか。
お花屋さんで切花として買えるユリには、いくつかの種類があります。
「カサブランカ」とか「オリエンタルユリ」とか「LAユリ」とか、断片的に聞いたことがあっても、いまいち違いを理解していない人も多いのでは。
お花屋さんで働いている人でも、しっかり説明できない人もいるかもしれません。
今も日々品種改良がおこなわれており、どんどん新しいジャンルのユリができています。お花屋さんだって、頭がこんがらがってしまうのも仕方ない。
現在お花屋さんで切花として出回るユリの種類を、もう一度おさらいしてみましょう。
切花として花屋に出回るユリ6種。
まず、お花屋さんに切花として出回るユリは、大きく分けてこの6種類。
これをお花屋さんのアタマの中で変換すると、こんな感じです。
1.大きくて、高くて、香りが良い『オリエンタル系』
2.小さめで、安くて、香りはないけど色バリエーション豊富な『スカシ系』
3.葬儀や仏用によく使う、すっとした咲き方の白いユリ『テッポウユリ』
4.6月にだけちょこっと出回る、楚々とした小さいユリ『原種系』(番外編)
といったところでしょうか。
*ここまでは、あくまで花屋業界での呼び方を記載しており、実際の系統名とは異なります。
それでは、ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
1.オリエンタルユリ【オリエンタル・ハイブリッド(OH)系】
スタンド花や、高価な花束でイメージする「大きくて香りのよいユリ」の仲間はここ。
品種は、白の「カサブランカ」「シベリア」「リアルト」、ピンクの「ソルボンヌ」「マーロ」などが有名。色は白系~ピンク系が主。
市場の伝票や流通では「OHユリ」と書かれることが多いです。
オリエンタルユリは、日本原産の「カノコユリ」「ヤマユリ」などを元に改良した品種群。江戸時代にこれらの日本のユリがヨーロッパに伝わり、品種改良の元になりました。
2.スカシユリ【アジアティック・ハイブリッド(A)系】
お花屋さんでは「スカシユリ」と呼ばれるユリの仲間は、アジアティック・ハイブリッドと言われる系統です。
上向きに咲く花が特徴。香りはほとんどありません。オレンジ・黄色・濃赤など、花が少し小さくカラフルなユリの仲間はここ。
お値段も手ごろなので、仏花に使われたり、昔から比較的なじみのあるユリです。
こちらも日本原産のユリ。中部地域以北の海岸沿いで見られます。
3.テッポウユリ【ロンギフローラム・ハイブリッド(L)系】
すっと伸びた茎、トランペット型で横向きに咲く花が特徴。切花で出回るテッポウユリの色はほぼ白ですが、最近は葉っぱが斑入りの品種も見かけます。とってもキレイ。
香りはあるもののオリエンタル系ほど強くなく、清楚な雰囲気。葬儀や法要などにも活躍しています。
こちらも日本原産のユリ。沖縄や奄美地方に自生しており、現在も沖永良部島が産地として有名ですね。
日本のテッポウユリは、1794年にヨーロッパに紹介されました。その純白の美しさからキリスト教の復活祭の象徴として用いられるようになり、現在でも「Easter Lily」として親しまれています。
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私がお花屋さんで働き始めたころ(1●年前)は、①~③の3種類だけ知ってれば問題なかったのですが、その後出てきたのが…
4.黄色いオリエンタルユリ【オリエンタルトランペット(OT)系】
いわゆる、「黄色いオリエンタルユリ」です。
それまで、オリエンタル系のユリは白~ピンクの品種しかありませんでした。黄色系のオリエンタルユリを作りたい!ということで登場したのがOT系のユリ。
品種では、「イエローウィン」「コンカドール」などが有名です。
OTユリは、中国が原産の「リーガルリリー」をオリエンタル系のユリに掛け合わせたもの。今までなかった黄色系の色を、大型のオリエンタルユリで実現しました。
5.LAユリ【ロンギフローラム×アジアティック(LA)系】
スカシユリより少し大きい花の「LAユリ」というジャンルです。
スカシユリと比較して、淡いピンク系が加わったのが画期的だったような記憶があります。淡いオレンジの「ロイヤルトリニティ」や、ピンクの「パーティダイヤモンド」が有名。
現在は、スカシユリの流通量を逆転し、LAユリの流通量の方が増えています。
こちらはロンギフローラム系とアジアティック系の交配種として登場しました。
6.原種系のユリ
ササユリ、ヒメユリなど、非常に小さく可憐なユリ。普通のお花屋さんの店頭で見かけることは少ないかもしれません。
①~⑤までのユリが一年中入荷できるのに対し、この手のユリは6月~7月頃の本当に短い期間しか出回りません。
花束やアレンジに使うというよりは、いけばなや茶花として使われるような、楚々とした美しいユリです。
家に飾るなら案外このくらいのサイズの方がいいなあと思うのですが、生産者も少なく、小さいわりになかなかの高級品です。
ヒメユリ、オトメユリ、ササユリなど、いずれも日本原産で固有の種です。
切花ユリの交配に使われている4つの系統まとめ。
OALT、4つのアルファベットを覚えよう
ユリの種類を調べていると、LAとかOTとかアルファベットに混乱しがち。まずこの4つの系統を頭に入れておきましょう。
あとから登場した「OTユリ」や「LAユリ」は、ざっくり言うとこんな感じ。
現在ではさらに品種改良がすすみ、
「TA」→上向きに咲くユリに、あざやかな黄色系を
「LO」→オリエンタルより少し小さく手頃なサイズ感に
なども登場しています。
こうなってくると、花屋の店頭では「○○ユリ」と名前をつけるのが難しくなりますね…。今後は、品種名や通称名で流通するようになるのかもしれませんね。
日本は、ユリの原種の宝庫。
今まで見てきてお分かりのとおり、現在出回っている切花ユリの「元」の原種は、ほとんどが日本原産。
世界には100種ほどのユリの原種があり、日本・中国・北アメリカ・ヨーロッパなど北半球に自生しています。日本にある原種は約15種で、そのうち7種は日本でしか見られない固有種です。
現在世界中で切花として楽しまれている園芸品種のほとんどのルーツが、日本と中国のユリだというのは不思議な感じがします。
ヨーロッパにもユリの原種はありますが、日本のユリのように上向きに咲くものが少ないのだそう。江戸時代に初めて日本を訪れた西洋人は、日本のユリの種類の多さに驚いたのかもしれませんね。
まとめ。
お花屋さんの店頭で見かけるユリの種類、違いがお分かりいただけたでしょうか。
最近ではオリエンタル系の「八重咲き」なんてのも出てきて、ますます種類豊富になっています。
日々品種名を覚えるのも大変ですが、今回見た『品種改良の4つのルーツ』を頭に入れておくと、新しいユリでも理解しやすくなるはず。
ユリを飾るときには、世界を駆け巡ってきた日本の原種ユリにも思いを馳せてみると楽しいかもしれませんね。