ガラス瓶の中にドライフラワーやプリザーブドフラワーをレイアウトして楽しむ『ハーバリウム』。
水替えや手入れの手間もかからず、インテリアにお花を取り入れられるとあって、すっかりブームとなりました。
イベントでは「ハーバリウムづくり」のワークショップが人気を博し、ハンドメイドサイトでも雑貨感覚で様々なハーバリウムが売られています。
お花屋さんとしては、若干複雑な気持ちになりつつも、新たな商材として取り組んでいるお店も多いのではないでしょうか。(プリザーブドフラワーが初めて出てきた頃の雰囲気に似ていますね)
本当は生花を楽しんでほしいから、いまいち心から賛同はできないけど、これだけブームになっていると無視するわけにもいかない…といったところ。
そもそも、ハーバリウムとは何なのか。誰が始めたのか。どうやって作るものなのか。
どうせ売るなら、花のプロとしてきちんとした知識をもって売りたいもの。
お花屋さんがいまさら聞けない、『ハーバリウムとは?』をざっくりまとめました。
『ハーバリウム』の語源。
ハーバリウム(herbarium)はもともと植物学における用語で、「植物標本集」を意味します。
植物の分類や生態を研究するにあたって、採集してきた植物を標本として集積していくわけです。その集積が「ハーバリウム」。また、そうした標本を所蔵している建物や研究機関のことを「ハーバリウム」という場合もあります。
植物の標本は一般には「押し花標本」が多いですが、アルコールや保存液にひたした「液浸標本」もあります。(動物でいうとホルマリン漬け標本ですね)
この液浸標本のイメージが、ガラス瓶の中に植物を詰めた現在の『ハーバリウム』の元となっているのだろうと思います。
ハーバリウムは誰が考えたの?
フラワーアートとしての『ハーバリウム』、ここ最近で急激に広まった感がありますが、いったい誰が仕掛け人なのか?
ちょっと調べてみましたが、よくわかりませんでした。情報求む。
どうやら日本発祥のブームらしいです。インスタグラムなどのSNSで注目され、広まったようです。
ハーバリウムの作り方と差別化のポイント
ハーバリウムの作り方は単純。
1.瓶の中にドライフラワーやプリザーブドフラワーを入れる(生花はダメ)
2.専用のオイルを注ぐ
以上!です。
単純なだけに、一目置かれるハーバリウムをつくるには、差別化の工夫が必要です。
差別化できるのは主にこの4点(だよね?)。
・花材の選び方・組み合わせ
・ボトルの種類
・オイルの種類(透明感・粘度)
・タグやラッピング
上手に作ってるなーと思う作品は、この4つにしっかりポリシーやこだわりがあるものですね。
オイルの種類について
ハーバリウムの神髄といえるのが「専用オイル」の存在。あれはいったい何なのか?
ハーバリウムのオイルは大きく2つに分けて、ミネラル系(流動パラフィン)とシリコン系があります。ざっくりまとめてみましょう。
ミネラルオイルとシリコンオイルの違い
粘度は、オイルのとろみ感。だいたい100がオリーブオイル、350がメープルシロップくらい、と表現されていることが多いです。わかるようなわからないような…。粘度が高ければ瓶の中のお花は動きづらくなります。
比重は、花材の浮かびやすさに関係します。水を1.0としたときの重さのこと。数値が大きい方が浮きやすいので、シリコンオイルの方がやや花材が浮きやすくなります。
流動点は寒さで曇り始める温度のこと。ミネラルオイル(流動パラフィン)の方が曇りやすいのですね。寒い地域への配送には注意が必要。
引火点は、火を近づけた場合に着火する最低の温度。引火点250度を境に、引火性危険物として指定されることになります(★)。ハーバリウム用オイルとして売られているものは、この点をクリアしている…といいのですが、そうでもないのが実情。
シリコンオイルより、ミネラルオイル(流動パラフィン)の方が値段は安め。どんな作品をつくりたいかに合わせて、オイルを選ぶことになります。
ベビーオイルやサラダオイルでも代用可、と書いてある本やサイトもありました。(サラダ油にドライフラワーを入れるのか…と複雑なきもち)
危険物としての扱いが必要なオイル
ハーバリウムオイルは可燃性のある油なので、種類によっては取扱い注意なものもあります。
シリコンオイルは引火点300度以上なので「非危険物」ですが、流動パラフィン(ミネラルオイル)は注意が必要。
流動パラフィンは、粘度によって引火点と流動点が異なります。
粘度が低いものは引火点も低くなり、引火点が250度以下の流動パラフィンは、消防法上の危険物に指定されています。
たとえば、ハーバリウムに適したオイルといわれている「流動パラフィン350#」の引火点は220℃で、危険物第四類第四石油類にあたるのです。
このようなオイルを大量に貯蔵する場合は自治体への届け出が必要だったり、大規模展示場での販売に危険物持込許可申請が必要になる場合があります。航空便での輸送もできません。
このように、一口に「ハーバリウム」といっても、危険物に該当するものとそうでないものが混在しているのが現状。使っているオイルの種類に関わらず、航空便での輸送は断られてしまうことが多いそうです。
(引火点が250℃以上のオイルは、消防法上も航空法上も共に危険物の対象外なので、航空機に搭載することは理論上は可能です。しかし、宅配業者などに空輸での配送を依頼した場合、ほぼ引き受けを拒否されてしまうのが現状だそう→参考HP)
このあたりの話は、あぶら屋ヤマケイさんのホームページが詳しい。各商品のSDS(安全データシート)もダウンロードできます。
ヤマケイさんのホームページより、ここだけ引用を。
ハーバリウムを商品として店舗やイベントで販売したり、インターネット上のネットショップやハンドメイドマーケットなどで不特定多数の方に通販される業者様、作家様には製造者責任が伴いますので、流動パラフィン(ミネラルオイル)の380#や、化学的安定性があり安全・安心なシリコンのご使用をおすすめしております。
販売する商品をつくる人は、自分が使っているオイルの種類をきちんと把握し、引火点250℃以下のオイルを使う場合は「危険物」を扱っているんだ、という自覚が必要ですね。
*もらったハーバリウムの場合、見ただけでは何のオイルを使っているかわかりません。きちんとした商品なら、原料名が書いてあるはず。パッケージなどを確認してみましょう。
ハーバリウム、捨てるときはどうするの?
買ったハーバリウム、プレゼントでもらったハーバリウム。処分したいときはどうやって捨てればよいのでしょうか。
オイルを排水口に流すのはNG。新聞紙やキッチンペーパーに吸わせて、可燃ごみとして捨てましょう。
中のドライフラワーはピンセットなどで取り出し、燃えるごみへ。ガラス瓶はガラスとして処分します。
シリコンオイルは凝固剤では固まりませんが、流動パラフィンは凝固剤で固めて捨てることもできます。前項でも書きましたが、流動パラフィンは固さによって引火点が異なりますので、事前によく確認が必要です。
また、シリコンオイルの場合、机や床、布や繊維についてしまうと、普通の洗剤では落とせません。捨てるときはこぼさないように、充分注意しましょう。
捨てようとしているオイルが何のオイルなのか、しっかり確認してから捨てられるといいですね。
ハーバリウム人気に思うこと。
急激に広まった、ハーバリウムブーム。ハンドメイドマーケットや雑貨屋さんで気軽に買えるギフトとして、まだまだ需要は伸びそうな勢いです。
私個人は自分の作品づくりに取り入れるつもりはなく(単に好みの問題です)静観モードですが、お店で販売する立場の人は知識をもって売るべきだと思うので、今回のまとめをつくりました。知らないことも多くて、勉強になったなあ。
瓶にレイアウトするテクニックも色々あることがわかり、なるほどデザインする楽しみもありそうだな、と良い発見もありました。
つくるのが簡単で、ワークショップもしやすくて、お金になる、という部分でブームが熱くなっている部分もあると思います。
使う素材の知識もきちんと責任をもって伝えること、廃棄する段まで情報をきちんと出すことなど、当たり前のことを製造販売者がきちんとして、ハーバリウムの素敵さが広まっていくといいなと思いました。
参考・おすすめ書籍
ハーバリウム自体が新しい流行なので、ようやく実用書が出始めたフェーズ。今回まとめをつくるにあたって、何冊かの本に目を通しました。
一番良さそうだったのは『ハーバリウムづくりの教科書』。
オイルの違いや廃棄の仕方にもふれていて、好感が持てます。空間をあけて花をレイアウトするテクニック(ゼリーワックスの使い方)や、オイルに色づけする方法など、けっこう細かく解説されています。
このフェーズでここまで手の内あかしてくれるのは、なかなか良心的なのでは。
『華と刻 ハーバリウム設計図』は、もう少しビジュアル寄り。
特典として、ハーバリウムのラッピングに欠かせない「タグ」のデザインがダウンロードできます。手っ取り早くオシャレなタグを用意したい人は買いですね。
フローリストでおなじみ誠文堂新光社からは『ハーバリウム―美しさを閉じこめる植物標本の作り方』。特に目新しい情報はないですが、いろんなフローリストが作ったハーバリウムが紹介されていて、作品づくりの参考になりそうです。