NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」に、今をときめくフラワーアーティストの東信(あずま・まこと)さんが登場!これはフローリストとして見ないわけにはいかないですね。
ということで、番組の流れと感想をまとめておきます。
ギンザシックスオープニング装飾!お披露目直前に現場でダメ出し!?
東氏の仕事現場に密着するところから番組はスタート。
今年オープンした大型商業施設・ギンザシックスのオープニングレセプションの花をまかされます。現場の総指揮監督は著名な空間デザイナー。花はぜひ東氏に、と任されます。
レベルの高い作品を求められるプレッシャー。スタッフとともに大きな装飾を完成させ現場に運び込むと、空間デザイナー氏からまさかの方針転換。うわーい、当日ですけど!!
「イメージに、ポップな要素を取り入れることになった」とのこと。他のフロアの照明もすべてそれに合わせて組み替えた、と言われます。
もうアレンジは完成しているのに…。この花たちを無駄にするわけにはいきません。
東氏は、流れるような動きの枝ものをアドリブで加えていくことに。するとがらりと作品の表情が変わり、空間デザイナー氏も大満足。レセプションは大成功…!ほっ。
お花屋さんになったきっかけと、独立。
福岡県出身の東氏は、ミュージシャンを目指して上京。ところが音楽の芽は出ず、軽い気持ちで花屋のバイトを始めたところ、花の魅力の虜になります。
仕事を覚え腕を磨き、店舗をまかされるようになりますが、そうなると出てくるのが花好きが必ずぶつかるジレンマ。
花1本1本すべて大切にしたいのに、売れ残れば処分せざるを得ない。
ロスを減らすためには、古い花からお客様に売っていくしかない。自分の心との葛藤。
いやわかるわー。売上や経営を考えるようになれば、誰もがぶつかるジレンマです。
そこで東氏は、独立して完全オーダーメイド受注の「花のない花屋」を銀座にオープンします。25歳のときでした。
ところがこれがまったく売れない。苦しい日々が続きます。
それでも諦めずに、切花ごとの鮮度を維持する方法の研究を重ね、徐々に長持ちするという評判がたち、デザインに共感する人が現れ、店は軌道に乗ってゆくのでした。
これがあるからやめられない。お客さんの「ありがとう」。
そんな苦しかった時代に、東氏の花を気に入って買ってくれていたお客様がいました。その女性へ、娘さんから記念日を祝う花の注文が入ります。
心を込めて、原点に戻って、花を活ける東氏。
できあがった作品を本人の元へ届けると、とっても喜んでくれたのでした。もらった方も、届けた東氏も、ちょっとうるり。
こっちがお金をもらう立場なのに「ありがとう」って言ってもらえる仕事はなかなかないよね。お客さんの喜ぶ顔を見ると、やっててよかったな、まだまだ続けていこうと思えるよね、と原点に返る東氏でした。
蜷川幸雄氏の一周忌、主役は300本のシャクヤク!(めっちゃ大変)
またも大きな仕事が舞い込みます。昨年亡くなった蜷川幸雄氏の一周忌に花を活けることになったのです。
メインに使うと決めた花は「シャクヤク」。300本の真っ白なシャクヤクを使った大作です。
産地に赴き、最上級のシャクヤクをベストな切り前(どのくらいのつぼみで切るか、ということ)で仕入れた東氏。当日まであと4日。
花屋ならわかる、もう泣きたくなるほどの、ここからが難しい開花調整。
温かい部屋で徐々に咲かせ、開きかけたら冷蔵庫で開花を止める。
すべてのシャクヤクが、当日のその時間に一番美しく咲くように。微妙な調整が続きます。
ところが前日までに思ったより気温が上がらず、まだ半分ほどがつぼみのまま。これは焦る。
開花を阻害するつぼみの蜜を拭き取り、湯上げをし直す。ストーブで部屋の温度と湿度を上げ、開花を促す。はたして間に合うのか…?
当日朝、固かったつぼみはほころび、ベストな満開のシャクヤクが300本揃いました。遺影の周りに配置された作品はおおぶりのシャクヤクがふんだんに使われた、見事な大作!
生きものを扱う難しさ。それでも、できることはすべてやる。感動を届けるため。殺してしまった花を生かすため。
その花に向き合う様はまさにプロフェッショナル…!さすがトップランナーの東氏です。
番組を見た感想。
…という番組構成でした。
いちフローリストの私が抱いた感想は
「うんうん、花屋って、こうですよね!!!」
です。
共感ポイントをまとめてみましょう
1.花屋は基本的に「下請け」。
ギンザシックスのオープニング当日、会場に行ってから「こうじゃないんだよなー」的な展開。
もちろんテレビ番組なので大袈裟に誇張された部分もあったでしょう。しかし「クライアントあってのお仕事」というのはそういうもの。自分が作りたいものを表現するアートとは違うのです。
そして大きな仕事になればなるほど、他ジャンルの人とチームを組んで仕事をすることになる。その中での花担当は、トップで指揮する立場にはなれないのです。
花屋はあくまで、花担当。花の専門家。全体を統括する空間デザイナーのような総指揮監督にはなれない。結婚式場でもそうですね。
ギンザシックスのオープニング花。土壇場の現場で仕上がりを変えることとか、規模は違えど花屋としてはあるある、わかるわー、という感じ。行って置いてみて、その場で変えることも結構ある。前もって完全に決めきれないというか。
— 高畠美月 (@unimizuki) 2017年9月4日
2.花屋は「いきもの相手」の仕事。
シャクヤク300本のアレンジメント。花屋ならもうその言葉を聞いただけで、卒倒しそうなくらい「大変だ」という想像がつきます。
作品をつくるのには素材が必要ですが、この「素材」がいきものなんですよ。季節でなければ手に入らない、咲かせたい大きさに咲いてくれない、なんてことは日常茶飯事です。
デザインとかセンスとか技術とか、それはまたその先のお話。素材を用意するだけで大変、の最大バージョンがあの「シャクヤク300本」だったと思います。
映画や雑誌の撮影で、本来の旬じゃない時期に花を用意する、とかもそうですね。
規模は違えど、花屋なら同じような経験はしています。結婚式のブーケはあれのミニチュア版。
シャクヤク300本の蜷川さん一周忌。「シャクヤクがメイン」と聞いただけでもうあの大変さは覚悟はするしかないのよ。「キレイに咲かせる系」の花は本当に大変。結婚式の作業場だって、ブーケに使うユリを咲かせるために暖房つけて徹夜してるスタッフいますしね。花屋はそんな感じなのだよ
— 高畠美月 (@unimizuki) 2017年9月4日
3.花屋は、いい花をいいタイミングで売りたい、でも難しい。
花屋の仕事に携わり始めてまずぶつかる壁がこれ。ロスを出さずにお店の花を回転させていくということは、古い花から売っていくしかありません。
スーパーの牛乳だって賞味期限が近いのを手前に置きますよね。生鮮品を扱っている商売なら当然のことです。
もちろん「古い」にも段階があり、古いから悪いというわけではないのですが(良い咲きごろになった方が美しい花もあります)やはり回転率が大事。
買われることなく咲きごろを過ぎてしまった花は、ごまかして大きなアレンジにでも入れるか、処分するしかありません。たくさんの花を並べて売っている花屋で、これを避けて通るのは難しい。
これをどうしても、1本でも、避けたいと思ったら、行きつく先はやはり東氏が考えた通り「完全オーダーメイド」「花のない花屋」ということになるでしょう。
4.喜んでくれる人がいるから、やめられない。
そんな大変なお仕事ですが、やっぱり喜んでくれる人がいるからやめられない。
「ありがとう」と言ってもらえる。お渡しした瞬間に、お客様の顔がパアア…!と明るくなる。涙を浮かべて感動してくれる人がいる。これこそが花屋の醍醐味です。
だからこんな苦労をしても、続けてしまうんですよねー。わかる。
まとめ。
今回の「プロフェッショナル」は、花屋の仕事を凝縮した、非常に良い内容だったと思います。お花の世界でプロフェッショナルを目指す人は見ておいて損はないです。
東氏は、花屋ならぶつかる「大変なところ」「納得いかないところ」に正面から真っ正直に取り組んでいるのだなあ…と感じました。
古い花を捨てたりごまかして売ったりするのはみんなイヤだなあと思っているけど、花のない花屋を実際に開く人は一握り。
開花調整が難しいユリのブーケは敬遠しがちだし、シャクヤク300本なんて大変すぎて私は絶対自分から提案しないと思います(こら)
さすが、トップになる人はここまでやるんだなあ…という感想でした。
花屋で働いたことある人ならわかる「コレ大変だよなー」「コレ納得いかないなー」と必ずぶつかることに、真摯に向き合って、手を抜かずにやっているということが素晴らしいのだろう。デザインとかセンスとかよりもっともっと土台の話。花屋はそういう商売なんだよね。
— 高畠美月 (@unimizuki) 2017年9月4日
そして東信さんほど名前が売れてトップランナーになっても、朝早くから夜遅くまで働いてて全然ラクにはなれないんだね…とも思いました。体力いるよね花屋。
— 高畠美月 (@unimizuki) 2017年9月4日
個人的にも、東さんのつくるお花は好きです。密で毒々しくて(いい意味で)、お花の魅力がぎゅっとつまってる。
いろんなシチュエーションのオーダーに応えてつくられたアレンジをまとめたこの写真集は面白くてオススメ。オーダー内容と、実際につくられたアレンジを並べて見られるのが面白い。
花を仕事にする人はこっちも参考になるかも。